今回のマッチレポートは、J1の第18節、ヴァンフォーレ甲府と柏レイソルの一戦。 ホームのヴァンフォーレの順位は、前節終了時点で16位。鹿島アントラーズと名古屋グランパスに勝利しているが、連戦でコンディションが最悪だったという前節のベガルタ仙台に4失点を喫して、甲府に戻ってきた。日程変更の影響で早くも二度目のレイソルとの対戦である。 ヴァンフォーレのスターティングメンバーは以下の顔ぶれ。 GK –荻 DF - 市川、小林、富田、山本 MF - 石原、伊東、柏、永里 FW - ハーフナー、阿部 一方、アウェーのレイソルはここまで首位を走っている。強豪のつまずきに助けられている感もあるが、昨シーズンからのJ1を意識したチームづくりが功を奏しているということだろう。清水エスパルスとアルビレックス新潟を葬ったゲームはマッチレポートを記したが、どちらの試合でもジョルジ・ワグネルがゴールを決めている。この日も圧巻のテクニックが見られるか。 レイソルのスターティングメンバーは以下の顔ぶれ。 GK –桐畑 DF - 村上、増嶋、近藤、ワグネル MF –兵動、茨田、栗澤、レアンドロ FW - 田中、工藤 ところで、両チームにはそれぞれ注目の選手たちがいる。ハーフナー・マイクや田中順也は得点ランキングの上位につけており、吉田豊と酒井宏樹のオリンピック代表はクウェートから帰国した日にベンチ入りしている。「近未来の日本代表を探す」という視点でも、この試合を見ていく。 今節のベストといってもよい、田中順也の素晴らしいゴール。 前半はホームのヴァンフォーレがボールへの食らいつきで敵を上回り、主導権を握りつつあった。各々に高い守備の意識を感じたが、その中で目立っていたのは右サイドハーフの柏好文。球際で強さを見せて、ドリブルでサイドを疾走していた。ただ、周囲との連携が不十分なのか、放ったクロスからチャンスは生まれなかった。 ミスがいくつかあったが、敵のように前線から激しくプレッシャーをかけるわけでなく、引いてカウンターを狙っていたレイソル。連戦の疲れを考慮すると妥当なプランは、29分に先制点を呼び込んだ。田中が右サイドに流れてボールを受けると、少し中央に切り込む。そこで選んだのは強烈なミドルシュートだった。今節のベストといってもよい、素晴らしいゴールだった。 レイソルは徐々に軽快なパス回しを見せ、攻撃のリズムを生み出していく。すると32分に追加点が生まれた。ワグネルのクロスに遠いサイドで反応したのは田中だった。ギリギリのところを左足で押し込んで、この日の2点目を奪った。これで今シーズンは早くも8点目。 この日もワグネルのキック精度は抜群だった。 無得点で終わった前半のヴァンフォーレ。シュートがわずか1本だったことを考えると、攻撃陣をテコ入れするかと思いきや、ハーフタイムで先に動いたのはリードしているレイソルの方だった。しかも灼熱の中東から帰国したばかりの酒井を投入してきた。 どうにか反撃したいヴァンフォーレは、57分に1点を返すことに成功する。直前にピッチに入った養父が高い位置でボールを奪ってゴール前へ運び、中央に折り返した。これをフリーだったハーフナーが冷静に決めた。ここまで精彩を欠いていたストライカーがようやく存在感を示す。 リードを縮められるという嫌な雰囲気。それをすぐに吹き飛ばしたのはワグネルだった。60分、フリーキックの壁を作る味方に檄を飛ばしていたGKをあざ笑うかのようなシュートが炸裂した。ゴール正面やや左の位置だったので、角度的に右足のレアンドロかと思ったが、左利きの天才はネットの左隅を難なく揺らして見せた。 追加点を奪ったレイソルは攻撃の手を緩めない。縦への飛び出しが光った工藤が何度も決定機を得たが、決め切れず、同様に惜しいシュートを放った兵動と共にベンチに下がった。リードしている状況でも、ネルシーニョ監督は林と澤を送り出して、チーム内の競争意識を煽っているようだった。 再びヴァンフォーレのペナルティエリアの前でファウルのホイッスルが鳴った。その瞬間、選手たちは得点を奪われたような気持ちになったのではないか。そう思わざるを得ないほど、この日もワグネルのキック精度は抜群だった。FKの位置は先ほどより良い角度で、今度はゴール右隅に決めた。これでリードは3点に広がって、勝負は決まった。 最後までボールを動かし、よく走ったレイソルが勝ったのは当然の帰結か。1-4でアウェーチームが完勝した。 酒井宏樹のタフさは代表に欠かせないもの。 終盤はチーム力の差を見せ付けられたヴァンフォーレだったが、注目していたハーフナーも光るプレーはほとんどなかった。確かに得点は決めたが、他の選手が持たない長身を生かせないまま。クロスに合うような位置取りはできず、味方との連携も途中出場のパウリーニョより見劣りした。意外と彼へのロングボールが少なかったので、チームの戦術も定まっていないのかもしれない。 逆にレイソルの田中は2得点を決めて、好調をキープした。貪欲な姿勢が目立つレフティーは、来月で24歳という年齢を考えると、ザッケローニ率いる日本代表に招集される可能性は高い。右足でボールを持った時にやや迷いを感じたのが気になるが、ネルシーニョ監督の「チームの為に走れて、戦術理解力も高い」という記者会見での言葉は重みがある。 レイソルの選手で言えば、後半開始からピッチに立った酒井についても触れておく。五輪最終予選進出を決めたアウェーのクウェート戦で先制点を奪った男は、試合開始の2時間前にスタジアムに到着するという強行軍だった。スペースに果敢に飛び出し、ペナルティエリアの中でボールをキープして良いパスを出したプレー以上に、彼のタフさは代表に欠かせないものだと思う。
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